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分担研究概要

人工内臓ナノ医工学

山家 智之
加齢医学研究所 臓器病態研究部門 病態計測制御研究分野 教授
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1. はじめに

  生体に特有な機能の現象や生理的な過程を理解し、それを現実の医療に役立つデバイス開発や診断・治療技術に応用していくのが医工学研究の目標の一つであると思われる。この目標を具現化するための代表例が、人工内臓の概念であることに異論は少ないと思われる。

  東北大学では戦前からの医工学研究の伝統に則り、人工内臓の開発研究にも長年の研究の蓄積がある。かかる伝統に則り近年の進展が著しいナノ医工学を応用した様々な人工内臓開発を進めており、その研究成果に則って新しい診断機器開発にも着手しているので概要を記述する。

2. 消化器系人工内臓

2.1 完全埋め込み型人工括約筋開発研究

  大腸癌の摘出手術後、病変部位が直腸に近かった場合、人工肛門が作成される場合が多い。腹壁に位置する人工肛門は、括約筋が存在しないので、排便のコントロールを自律的に行うことが難しく、患者のQOLが制限される症例が多い。

  そこで東北大学では、形状記憶合金による人工括約筋を発明し、日本、EU,米国、中国などの特許を取得して開発を進めている(1)。

図1 . Chrnic animal experiment of an artificial sphincter

  システムは形状記憶合金アクチュエータによる括約筋本体とナノテク素材による磁気シールディング技術を駆使した経皮エネルギー伝送システムからなり、患者はトイレで経皮エネルギー伝送コイルを接触させれば、括約筋は開放され排便が出来る。現在慢性動物実験段階で、早期の臨床が待たれる。この括約筋アクチュエータは他の様々な人工内臓に応用が可能である。

2.2 完全埋め込み型人工食道開発研究

  外科手術の技術及び麻酔学が進歩した今日でも、食道癌の手術は決して簡単な手術ではない。切除手術に開胸が必要であり、再建のための胃や腸管のテク出芽不可欠で手術侵襲が大きく、高齢者や心肺機能に問題のある患者の手術は不可能になる。

  もし、人工の食道があれば開腹手術の必要はなくなり、手術手技が大幅に簡略化され、適応範囲が広がる。

図2 Photograph of an artificial esophagus system

  そこで完全埋め込みが可能で、食物を搬送する蠕動運動機能を保持する人工食道システムの開発計画がJSTなどの援助で進められている(2)。

  システムが具現化すれば、高齢者の食道癌患者などにとって福音となるものと期待される。

2.3 癌を治療し、食物を飲み込む「超」食道ステント

  残念ながら食道癌の症例は胃がんなど他の消化管悪性腫瘍と比べても転移や進行が早く、発見された時点では既に摘出手術の適応がない症例は多い。

  そこで、末期食道癌にも適応できる「超」ステントシステム開発が進められている。癌に対するハイパーサーミアの治療効果と、食物を搬送する蠕動機能を併せ持ち、内視鏡だけで挿入できる完全に非侵襲のシステムである。

図3 Super stent system

3. ナノテクノロジーによる管腔系臓器再生医療

  人工臓器の概念に最近は再生医療の方法論の概念も提案されるようになってきている。東北大学では新しい生体吸収性ナノテク素材に、ナノテク合金スキャフォールドを組み合わせた新しい再生医療に挑戦している。既に食道など消化管や気管の再生に成功し、将来性が期待される(4)。

図4 Regenerative trachea

4. 循環器系ナノテク人工臓器

  これらのナノテク技術は当然循環器系の人工内臓へも応用が可能であり様々な循環器系人工内臓開発が進められている。

図5 Total artificial heart

  人工心臓の小型化は大きな問題であるが、東北大学は波動ポンプシステムの応用により小型軽量化を追及している。

図6 Animal experiment of the axial flow pump

  軸流ポンプや遠心ポンプの受託研究も進め、我が国の人工心臓センター的な役割を果たしつつあり、最近ではナノテク人工心筋の開発にも着手している。

図7 Animal experiment of artificial myocardium

4. 完全埋め込み型脳神経機能制御装置

  てんかん発作は全人口の1%の有病率を持ち、まれな疾患ではない。薬剤抵抗性の症例の場合には脳神経組織の病巣切除の適応も考えられる。そこで脳神経を切らないでてんかんを治療する埋め込み型のデバイスが研究され始めている。

図8 Epilepsy attack control machine

文 献

[1] 特許第3910020号、人工括約筋
[2] 特許公開2006−141881: 蠕動運動搬送装置
[3] 特許出願2005−335435、体内留置多機能ステントおよびその製造方法
[4] 特許公開2005−349025: 生体親和性金属ステント及び管腔系内臓再生医療用スキャフォールド
[5] 国際公開番号WO2004/112868、人工心筋装置
[6] 特許公開2006-141993臓器冷却装置

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